性反応と自律神経系

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こんにちは。植物療法士、フェムケアセラピストの宮窪るなです。

人は誰しも、多かれ少なかれ〈性〉にまつわる疑問や悩みを持っています。たとえば、自分の性器の見た目についての不安は、みな一度は抱くもの。また、デリケートゾーン周りの乾燥やムレ、かゆみといったトラブルも多いですよね。

私もこれまで、性に関する不安やコンプレックスを感じてきました。

性の話はまだまだ世間一般にはタブー。
でも、私は自分の体でいったい何が起こっているのか、ちゃんと知りたい!

そう思った私は、不安の渦から一歩外に抜けだし、冷静になって人間の性反応について思考をめぐらせようと性科学やフェムケアについて学び始めました。

そういえば、「感じる」や「濡れる」、「勃起する」、「オーガズムに達する」といった性反応は、なぜ、どのように起こっているのか、これまで考えるキッカケはあっただろうか…?

闇雲にジレンマや劣等感を抱くのをやめ、そのモヤモヤを学びという力に変えていったとき、しばしば目にするようになったのは〈自律神経系〉という言葉でした。

どうやら人間の性反応の不思議にせまるには、自律神経系とやらがカギになっているようです。

ということで今回は、私たちの健康をつかさどっている〈自律神経系〉をもとに、人間の性反応を深掘りしていきます!どうぞ、最後までお付き合いくださいね。

性反応の仕組み

性反応が起こるとき、私たちの心と体はいったいどうなっているのでしょうか。

性的興奮のメカニズムには、大きくふたつのパターンがあります。簡単にいうと、1. 心(脳)による想像で興奮がスタートする場合と、2. 体に刺激が与えられることで興奮がスタートする場合です。

ざっくりと説明します。

  1. 「この人と抱き合いたいな」と性的な気持ちがわいてきたとしましょう。その感覚は、脳の大脳辺縁系の性欲中枢を興奮させ、さらに視床下部の勃起中枢を興奮させます。これらの刺激が仙髄部分までとどき、性器に反応が起こります。
  2. 自身、またはパートナーなどから性器に刺激が与えられたとしましょう。その感覚が仙髄部分にとどき、性器に反応が起こると同時に視床下部の勃起中枢を興奮させます。そしてこれらの刺激がふたたび仙髄部分までとどき、性反応を強めます。

このように、心(脳)と体で起こる性的な興奮は、相互に関わり合いながら高まっていくのです。

性反応の高まり方

ちなみに、先ほどから何度も視床下部という聞きなれないワードが登場していますが、これこそが今回のテーマ、自律神経系におけるフィクサー的存在。なぜなら視床下部は、自律神経系の司令塔とも呼ばれる大切な場所だからです。また、視床下部からつながる下垂体はホルモン分泌の中枢でもあります。

すなわち、私たちが健やかに暮らすうえで、自律神経系とそれらの司令塔である視床下部は決してスルーできない大切な要素といえるでしょう

加えて五感のなかでも嗅覚が、この視床下部に伝わるとされています。

“自律神経”とは

“自律神経”というトピックは、今や雑誌やネットなどでよく見かける言葉です。しかし、「つまるところ自律神経ってなんなの?」と思っている方も多いのではないでしょうか。

実際に、「自律神経を整える」や「自律神経の乱れ」は世にあふれる常套句。ですが、果たして“自律神経”とは、そんなに単純なものなのでしょうか。

そもそも、自律神経って意識して整えられるの?
そして簡単に乱れるものなの?

考えれば考えるほど、沼にハマっていく興味深いテーマです。

では、“自律神経”とは具体的になにをさす言葉なのかを考えてみましょう。

自律神経はまるでシーソー

健康を意識するとき、目に見える部分とそうでない部分の両方に焦点を当てる必要があります。たとえば肌荒れや抜け毛は目に見える不調ですが、体のなかにある臓器や心の不調は、必ずしも目には見えませんよね。

とくに内臓のはたらきや代謝・体温などは、もともと体に備わったあらゆるシステムによって管理されています。そのうえ私たちは、これらを意識的に調節することができません。

この内臓や代謝・体温などの舵とりをしてくれているのが、俗にいう“自律神経”。

つまり、自律神経系は、私たちの意識の及ばないところで、いつもと変わらぬよう常に心と体のバランスを保とうとし続けてくれているのです。その証拠に、私たちが寝ているあいだにも、内臓たちははたらいてくれていますよね!

自律神経は寝ている間も働いている

さらに深掘りしていきましょう。

私たちの体には、毛細血管と同じレベルであらゆる神経が張りめぐらされています。たとえば、興奮や危険など、心と体が緊張状態に対応した態勢をとるようにはたらく〈交感神経〉。反対に緩みや落ちつきなど、心と体が安息状態となるようにはたらく〈副交感神経〉がありますが、これらの総称が〈自律神経系〉です。

世間ではざっくり“自律神経”と表現していますが、これは交感神経と副交感神経をまとめたものを指した言葉で、実は“自律神経”という単体の神経は存在しません。

さらには、自律神経系は読んで字のごとく、自律している神経。たとえば、みずから血圧を調節したり、「胃液よ、出ろ!」と願って胃液を出したりするのが不可能であるように、私たちがどうあがいたとしても、これらの神経は意識的にコントロールできません。

自律し、恒常的に心と体のバランスを維持するようはたらきかけているので、世間で騒がれているほど、そう簡単に乱れるものではないとも言われています。

裏を返せば、私たちの体は、自律神経系(そして、それをつかさどる視床下部)のもとに管理されているのです。

これは、性反応でも同じ。

もし性反応が自由自在にコントロールできるのならば、腟粘液の不足によって痛みを感じる女性も、「今日こそは!」と祈り、そのプレッシャーから勃起できずに悩む男性も存在しませんよね。

要するに、人間の性反応も、もれなく自律神経系の支配下にあるのです。

自律神経系と性反応のメカニズム

さて本題に入りましょう。

自律神経系に分類される、交感神経と副交感神経の具体的なはたらきを説明します。

よく、交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキといった表現をされますが、交感神経が優位になっているときは、動物でたとえると狩りをしているときや危険がせまっているときに起こる体の反応(闘う・逃げる)をイメージするとよいでしょう。反対に、副交感神経はいわゆるリラックスした状態です。

両者は常にバランスを取りながら、私たちの健康を無意識に支えてくれています。

自律神経系がそれぞれの臓器へ与える影響を下の図にまとめてみました。

自律神経系が各臓器に与える影響

もう少し噛みくだいていきましょう。

危険がせまり緊張状態にあるとき、心臓がバクバクと波打った経験をされた方も多いと思います。これはたくさんのエネルギーを使っていつでも戦えるようにするため。

また、敵から逃げるときは、トイレに行っているヒマなどありません。ですので、いつもどこか張り詰めていたり圧迫されていたりといった気持ちが続いている場合は、腸の運動が低下=便秘となるわけです。

さて、性反応はどうでしょうか。

結論からいうと、勃起のときに優位になるのは副交感神経、射精のときに優位になるのが交感神経です。

性的な刺激により視床下部を介して副交感神経が高まると、血管が拡張し大量の血液が陰茎に流れこみます。すると陰茎のなかにあるスポンジのような組織が膨張し、勃起にいたるという仕組みです。そして、心の興奮と性器への刺激が続けられることで交感神経が高まり、射精にいたります。

では、女性の体はどうでしょうか。

実は男性でいうところの陰茎は、女性の陰核(クリトリス)に相当します。ふたつは共通の組織を持ち、似ている点も多いのです。女性は射精こそしませんが、男性と同じく性的に興奮すると陰核が2倍ぐらいに膨張(勃起)し、腟壁や腺から粘液が染み出します。さらに興奮が高まるとオーガズムに達するのです。

女性も勃起をするなんて、ビックリですよね?

健康な男性が、明け方のリラックスした状態のとき、“朝勃ちする”とよくいいますが、実は女性も同じく、心と体が緩んでいるときに陰核が膨張していることもあるんですよ!

ちなみに、女性の陰核にも男性の陰茎と同じく、たくさんの神経が集中しています。しかし両者では大きさがまったく違うため、陰核の神経の密集ぐあいは、なんと陰茎の約50倍だそう!

つまり、陰核はとてつもなくデリケートな場所。単純かつ単調な刺激では快感を得られないだけではなく、不快な触られ方にもかなり敏感だとわかります。

女性を快感にみちびくには、それなりの鍛錬が必要なんですね。

自律神経はバランスが大事

さて、性反応が自律神経系のはたらきによるものだとなんとなく理解していただけたでしょうか。

パターンとして、ひどく緊張していたり不安があったりすると、副交感神経が優位にならず、EDや腟の粘液不足を引き起こしてしまうのは可能性として想像ができるかと思います。

ただし「勃起しない」、「濡れにくい」からといって必ずしも自律神経系に乱れが生じているとは限りません。

くり返しになりますが、勃起は血管が拡張して大量の血液が流れこむことで起こるもの。つまり、血流も大事なポイントです。生活習慣病によるEDである可能性もありますし、そのほかの持病やホルモンバランス、術後の状態によって濡れにくい体質になるなど、性反応は大きく揺れうごくとされています。

性生活に不安を感じる場合や、どうしても気になるときは、医師から意見を聞いたり、セックス・セラピストなどのカウンセリングを受けたりするのもおすすめです。

まずは原因を見つけ、自分なりの解消方法を探りながら、一緒に伴走してくれる専門家に相談してみましょう。

さいごに

今回は、私たちの体に起こっている性反応についてお伝えしました。聞き慣れないワードが多く、少し難しかったかもしれませんね。

自律神経系は目に見えない部分であり、まだまだ医学的にも全てが明かされているわけではないミステリアスな分野です。ですが私たちの心と体を支えるためのもっとも重要なパートを果たしています。

そして、性に関する話題はさらに閉鎖的。誰かに相談することが難しいからこそ、ひとり不安になったり「自分の体は人と違うのかもしれない…」とコンプレックスを抱いたりするのも無理はありません。

だからこそ私は、「わからない」「こわい」を「知る」「わかる」に変えていって欲しいと願っています

他人と自分を比べては、ネットの記事に惑わされるのではなく、正しい知識と判断力を持って、その課題と向き合ってみましょう。私も、不安や劣等感のエネルギーを学びという力に変え、何度も救われる想いを感じてきました。そう考えると、学びはある種のセラピーのようなものですね。

ただの下ネタ、もしくはタブーとして流さず、自分やパートナーのなかで起こっている体の仕組みを理解するというアクションは、不安や悩みの解消につながります!

大事なのは、正しい知識に触れること。みなさんが学びの扉を開けて、自分の心と体、そしてセクシュアルな時間を大切に思っていただければとても嬉しいです。


参考文献 石原章一(2016)『運動・からだ図鑑 脳・神経のしくみ』マイナビ出版/日本性科学会 (2018)『-性機能不全のカウンセリングから治療まで- セックス・セラピー入門』金原出版株式会社/Ellen Støkken Dahl・Nina Brochmann(2019)『世界中の女子が読んだ!からだと性の教科書』NHK出版/学校法人医学アカデミー(2020)『ズルい!合格法 医薬品登録販売者試験対策 鷹の爪団直伝!参考書 Z』株式会社薬ゼミ情報教育センター

著者プロフィール

宮窪るな

宮窪るな(みやくぼ るな)
植物療法士/フェムケアセラピスト

離婚をきっかけに体調を崩し、月経前不快気分障害(PMDD)や月経困難症に悩まされるようになる。できるだけ自然のちからで心身に向き合いたいという信念から、植物療法専門校「ルボアフィトテラピースクール」の門をたたき、AMPP(仏植物療法普及医学協会)の認定資格を取得。学びの中で、恩師である森田敦子先生が啓蒙活動を続ける〈性科学(セクソロジー)〉にも大きく心を動かされ、タイ・チェンマイ発祥のトリートメントである〈カルサイネイザン〉を学ぶ。現在、フェムケアサロンの活動とともに、SNSで植物療法や性の本質を発信している。
Instagram:@phyto_note_luna

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