こんにちは。植物療法士、フェムケアセラピストの宮窪るなです。
皆さんは、“気の合う相手”とセックスしていますか?また、これまでのパートナーとは気が合いましたか?
性的指向はさまざまあるなかで、心から「好きだなぁ」「安心するなぁ」と思える相手と肌を重ねられるのは、とても幸せなことですよね。
コラムvol.3では「私たち人間がセックスをするのはなんのため?」という質問を投げさせていただきました。そこであげたふたつの理由は、生殖行為のため、そして快感を得るためでした。
一方で、性について語られるサイトや動画、書籍などで、こんなフレーズもよく見聞きします。
セックスは“エネルギーの交換”である。
どうやら私たちは、セックスでエネルギーとやらを交換しているらしい…?なんだかワクワクしますね!今回は、いろいろな側面をもつセックスのあれこれを〈東洋医学〉という切り口からひもといていきます。
もくじ
セックスは健康法のひとつ?
セックスで得られる快感、それは単に性欲を発散するためのものではありません。ストレスを解消したり、心のバランスを整えたり、さらには眠りを促すなど、私たちが健やかに暮らすために大切なものということは、コラムvol.3でもお伝えしたとおり。
その証拠に、文明が発達するずっと前の人々にとって、セックスは健康法や養生法のひとつだったとされています。
例えば、中国の伝統的な性医学に〈房中術〉と呼ばれるものがありますが、これによると、セックスは「深い快感と愛情を味わうと同時に、相手と〈気〉を交流させて健康を手に入れる気功の一種」と説明されているのです。
〈気功〉とはー姿勢、呼吸、意識を整えて全身に〈気(エネルギー)〉をめぐらせる中国古来の健康法。言葉だけを並べると、どこかとっつきにくさを感じてしまうのですが、これこそがまさに、セックスが“エネルギーの交換”とされる所以です。
セックスは、パートナーと一緒になって行う気功法。「自分の気と相手の気を交わす行為」なのです。
体の仕組みや漢方などの勉強をするなかで〈気・血・水〉という要素を聞いたことがある方も多いでしょう。とくに〈気〉(もしくは氣)の概念は、東洋医学に基づいて性を考えるとき、もっとも重要です。
〈気〉とは、私たちの活動の基本となる生命エネルギーのこと。
〈血〉や〈水〉とは違い、目には見えないものなので、現代を生きる私たちにとってはピンとこないものですが、〈気〉は私たちの体を常にめぐっていて、無意識にその状態を感じとっているとされています。
普段、気にとめることは少ないですが、病気、正気、気合い、気が強い、気配り、気まずい、気晴らし、など〈気〉を使った日本語は実はとても多いのです。これはセックスにかぎった話ではなく、私たちはいつも人や言葉、自然などから元気をもらっています。
とりわけ〈房中術〉のなかでは、セックスは気功の一種で、健康を手に入れるためのもの。
しかし蓋を開けてみると「疲れるから」「いやらしい気分になれないから」「痛みがあり、精神的に苦痛だから」などの理由で、積極的に行為にのぞめない人が多いように感じます。なぜこのような気持ちが沸き起こってしまうのでしょう?
その理由は、日本の性教育のあり方で述べたとおり、性にたいする罪悪感や、それ自体が卑猥なものだといった刷り込みがあるから。また、アダルトビデオなどの影響で、根本的に所作が間違っている場合や、「いやらしい気分=性的興奮」などと、視野が狭められている可能性もあります。
健康法とされるセックスを、このように歪んだ考えで避けてしまうのはもったいない!
自分の気と相手の気を交わし、エネルギーの交換がされるセックスは、決して悪いものではありません。むしろ、疲れているときこそ肌を重ねてみませんか?なぜならセックスは本来、体の疲れを取り、心を満たしてくれるものだからです。
ただ、抱き合ってみて
しかし、アダルトビデオで描かれているような欲望を発散するだけのセックスでは、かえってぐったりと疲れて終わってしまい、“エネルギーの交換”どころではありません。一体、どうすれば良いのでしょうか。
日本中医学会事務局長であり、フロー・セックスを提唱する瀬尾港二氏は、おたがいの性器を結合させたまま、30分抱き合って射精を我慢するだけ、といった方法を推奨しています。このとき激しく動いたり、いわゆるピストン運動をしたりせず、じっと静かにふれ合うことがポイントだそうです。
これまで、摩擦にまかせた快感や、射精という名のゴールこそセックスの定番としてとらえていた方からすれば、かなり斬新な方法に思えるのではないでしょうか?とくに男性からは「そんなの無理だ!」と声が聞こえてきそうです。
ところが、この射精を我慢して30分抱き合った先にある感覚こそ、セックスで感じる悦びの真髄。一晩中でも抱き合っていられるような、終わりのない心地よさに包まれると、瀬尾氏は述べています。
たしかに男性は、ピストン運動によって快感と興奮が高まり、射精を迎えることができるでしょう。また、セックスの先に妊娠を求めるのならば、射精は必要な過程ではありますが、ここでひとつ、立ち戻って考えてみませんか?
そもそも私たち人間は、生殖行為のためだけにセックスをしているのだっけ…?
快感を得たい。肌を重ねて温もりを感じたい。相手を知りたい。愛を伝え合いたい。そして、ただ、つながりたい。セックスには生殖行為以外にも、多くの側面があります。そのすべての側面に、摩擦と射精は必要ですか?
私は、射精を我慢して30分ただ抱き合う方法を知ったとき、まさに頭を打たれた気分になったのです。世に溢れた“性の常識”に、いかに自分が流されていたかを知った瞬間でした。
30分には意味がある
でも、なぜ30分なのか、疑問をもった方もいるでしょう。単に「キリが良いから」ではありません。その秘密を解くカギは、気の通り道でもある経絡(けいらく)にあります。
鍼灸院へいくと、いわゆるツボに、お灸をすえたり鍼を打ってもらったりしますよね。ツボは正式には経穴(けいけつ)と呼ばれます。メトロで例えると、経穴は駅、そして経絡は駅をつなぐ線路です。私たち人間の気は、全身の経絡をとおして一日50周すると言われています。では、気が体を一周するのにかかる時間を計算してみましょう。
60分×24時間÷50周=28.8分
つまり、おおよそ30分抱き合ったままの挿入時間をもうけると、相手の気が自分の体を、グルッと一周することになります。
さて、冒頭の質問を思い出してください。
皆さんは、“気の合う相手”とセックスしていますか?
ただ欲望を発散するだけの付き合いや、行きずりのセックスによって、どこか心がくたびれてしまったり、何かがすり減ったように感じることが多いのは、自分と相手の気が合っていない証拠のひとつ。自分に合わない気を取り込んでしまうセックスは、健康法とは言えませんよね。
理想は「そばにいたい」と思えたり、ふれあって幸せな気持ちになるような相手と交わること。それと同時に、相手に与える自分の気も健康に保っておくことを、忘れないでいてくださいね。
陰陽論とエネルギー
では、セックスで交わしあうエネルギー、いわゆる気とはどういったものなのでしょうか?もう少し具体化させるために、ここからは〈陰陽論〉という考え方をもとにお話ししていきたいと思います。
陰陽論とは、古代中国の自然観で、この世のすべては〈陰〉と〈陽〉、大きくふたつの要素が関係しあいながら成り立っている、とした理論です。 例えば、晴れと雨、昼と夜、夏と冬、外と中、直線と曲線など。この陰陽論にのっとると、男性は陽、女性は陰になります。
補足としてお伝えしたいのが、これは良し悪しの理論ではないということです。光は影があるから存在し、影は光があるから存在します。たがいに補い合い、惹かれ合う関係であると理解してください。
そして水と油のように、決して混じり合わないものでもありません。陰陽のバランスを表す〈陰陽太極図〉をみてもわかる通り、陽のなかにも陰があり、陰のなかにも陽があります。また、ここでいう“男性”と“女性”は、性別を二元論的に捉えたものでもなく、“暖かい”と“冷たい”のように、あくまでも性質の話になります。
私たちは本能的に、どちらか一方の性質が強くなりすぎないよう、常に陰陽のバランスをとろうとしています。バリバリと働いた日には、ストンと眠りにつけますし、ボーッとした時間を過ごすなかで、ふと妙案が生まれることもあるでしょう。
そして、このバランスが崩れてしまうと、心身に不調があらわれるとされています。女性の場合は陰に傾きすぎたとき、男性の場合は陽に傾きすぎたとき、体調を崩してしまうという仕組みです。
人は、自分とは“異なる性質”をもっている誰かに惹かれるものです。“異性”を取り込み、自分がもともともっている性質が極端に傾きすぎないようバランスを取ろうとしています。例えば、女性は男性から陽のエネルギーを、男性は女性から陰のエネルギーを、セックスやふれあいをとおして受け取り、より健康でニュートラルな状態を無意識に保とうとしているのです。
セックスの不満を読みとく
陰陽論は、セックスによくある不満を読みとく糸口にもなります。例えば「彼だけが快感を得て、私は気持ち良くなれないまま終わってしまった」といった経験をもつ女性はとても多いですよね。
オルガズムに達するまでにかかる時間は、男女で差があります。平均的に男性で10〜12分、女性で16〜18分ほどかかりますが、性に対して恥じらいやネガティブな感情を抱いていることが多い日本人女性は、さらに時間がかかると言われています。
陰陽論に基づくと、陰である女性は、〈冷たい〉〈水〉〈ゆっくり〉の性質をもちます。相対して陽である男性は、〈熱い〉〈火〉〈はやい〉になるわけです。
要するに、もともと火の性質を多くもっている男性は、体や興奮の熱がすぐにやってくるため、水の性質を多くもつ女性よりもオルガズムに達するまでの時間が短くなります。
冷たい水を沸騰させるためには時間がかかりますから、男性主導のスピーディな動きのセックスだと、女性が快感を得られないまま終わったり、腟が乾いてしまったりと、自分だけが独りおいてきぼりにされた感覚におちいるのです。
セックスは2人で楽しむもの。ひとりよがりは禁物です。お互いの性質を理解し、歩みよる心構えを、なによりも大切にしたいですね。
ちなみに、エネルギーの交換手段として、もっとも効率が良いと言われているのがセックスであるだけで、そこにこだわる必要は全くありません。例えば、愛するパートナーや、大好きな友人、家族や動物を抱きしめたとき、なんだか充電された気分になるでしょう?その充電という感覚こそが、気のめぐりなのです。セックスだけに執着せず、自分の心と体の健康バランスに耳を傾けて、気を感じてみましょう。
さいごに
今回は、東洋医学からセックスをひもといてみました。〈気〉や〈陰陽〉の要素をふまえると、いつもとは違った角度から性を感じることができると思います。セックスは、しばしば肉体関係と表現されますが、実は肉体以上につながっているものがあるのです。
肌を重ねたいといった欲望は、心から「好きだなぁ」「安心するなぁ」と思う相手のそばにいると、自然と湧いてくる感情。出発点は“いやらしさ”ではありません。その感情が湧き起こる相手こそ、気の合う相手なのではないでしょうか。
エネルギーを交換するイメージが、パートナーとより深いつながりを感じるきっかけになればとても嬉しいです。
著者プロフィール
宮窪るな(みやくぼ るな)
植物療法士/フェムケアセラピスト
離婚をきっかけに体調を崩し、月経前不快気分障害(PMDD)や月経困難症に悩まされるようになる。できるだけ自然のちからで心身に向き合いたいという信念から、植物療法専門校「ルボアフィトテラピースクール」の門をたたき、AMPP(仏植物療法普及医学協会)の認定資格を取得。学びの中で、恩師である森田敦子先生が啓蒙活動を続ける〈性科学(セクソロジー)〉にも大きく心を動かされ、タイ・チェンマイ発祥のトリートメントである〈カルサイネイザン〉を学ぶ。現在、フェムケアサロンの活動とともに、SNSで植物療法や性の本質を発信している。
Instagram:@phyto_note_luna