こんにちは。植物療法士、フェムケアセラピストの宮窪るなです。
皆さんにとって、セックスとは?
今、話題の海外ドラマ『セックス・エデュケーション』に登場するセックス・セラピスト、ミルバーン博士はこう言います。
「性交というものは、素晴らしいけれど、大変な痛みを伴うこともあるし、注意を怠ると人生がぶち壊しになるの。」
実に興味深い意見ですね。
前回は、セックスで感じる“痛み”に焦点を当てました。今回は、セックスの素晴らしい側面である“快感”についてのコラムです。
どうぞ、最後までお付き合いください。
もくじ
セックスをするのは何のため?
そもそも私たちは、何のためにセックスをするのでしょうか?
まず、子孫を残すための生殖行為であることは間違いありません。しかし、子供を望まない夫婦、同性のパートナー、そして熟年カップルの間にもセックスはありますよね。
さらに考えの幅を広げてみましょう。ヒト以外の動物は?もちろん交尾をおこないます。しかし彼らには繁殖期があり、加えて、体位は決まって後背位です。
人間には、出産適齢期と呼ばれる時期はありますが、繁殖期はありません。365日、新たな命が誕生します。そして、さまざまな体位でまぐわうことができます。
どうやら人間のセックスには、他の動物たちとは違ったエッセンスが含まれているようです。
それは、暮らしの中に自然とあるもの。体だけではなく、言葉と目を交わしながら、パートナーとの絆を深めるもの。健やかに生きる上で大切な悦びであると私は考えます。
そしてそこには、“快感”がともなうのです。
性的な満足を求めたり、体の交わりを望んだりする欲望を、性欲と呼びます。中には、この性欲に対してネガティブな感情をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんね。
私もかつて「(特に女性が)性欲を抱くのは恥ずかしいこと…?」と悶々と悩んだ時期がありました。
しかしそれは大きな間違い。性欲は、恥ずかしい欲求ではなく、むしろヘルシーな欲求です!それを今から説明していきます。
性欲はヘルシーな欲求
まずは、人間が抱くさまざまな欲求について考えてみましょう。
私たちが抱く欲求のうち、ベースにあるのが生理的欲求です。簡単にいうと、私たちが健康に生きていくために必要最低限な欲求を指しています。
生理的欲求の次に、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求がピラミット状に続きます。
「あれ?三大欲求はどこ?」と思われたでしょうか。
実は、私たちが普段よく耳にする三大欲求ー食欲、睡眠欲、そして性欲は、先ほど説明した生理的欲求のなかに含まれているのです。

つまり性欲は、人間が健康に生きていくために必要なもの。食欲や睡眠欲と同等な欲求であり、命を紡いでいくために、自分の心と体を守るために奪われてはならない権利でもあると言えるでしょう。
実際に「性と生殖に関する健康と権利」として国際的に提唱されている、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(通称SRHR)の理念によると、全ての人がセックスを安心して楽しめることは、基本的人権のひとつと位置付けられています。
性欲は、ごく自然な生理的欲求であり、人間が人間らしく生きるためのもの。そして〈性〉の悦びを得ることは、社会的に認められているのです。
女性だって快感を求めてる!
皆さんは〈ヒステリー〉という言葉を、一度は聞いたことがあると思います。
現在では違った呼び名がついていますが、かつては“子宮”が女性のからだに悪さをしているゆえに起こる疾患と考えられており、ほんの数十年前に削除されるまで、女性の健康をあつかう医学書に必ずと言っていいほど登場していました。
症状は、不安や不眠、イライラ、官能的な妄想、下腹部の重み、むくみ、腟湿潤など。今、冷静に考えると、これはPMS(月経前症候群)、もしくは性的に欲求不満な状態であると予想がつきますよね。
しかし当時は、これを女性特有の疾患だと捉え、医師が手で女性患者を“神経発作”に導くことでヒステリーの治療にあたっていたとされています。
ただしことは順調には進まず、医師たちはある壁にぶち当たってしまいます。彼らは気がついたのです。
「女性をオルガズムへ導くことは、それほど簡単ではない…!」と。
医師たちは、指の代わりとなる道具を見つけるため、当時普及していた電化製品を試し始めます。ミシン、扇風機、湯沸かし器、トースター…。これらをどう活用しようとしたのか興味深いところではありますが、もちろん結果は失敗。
そうして試行錯誤のすえに現れた救世主、それがバイブレーターでした。
いま世に溢れているプレジャーアイテムたちの原点は、医療用器具だったのです。
とはいえ、その頃は〈性〉に対する認識にまだまだ偏りがあった時代。ヒステリー治療を行っていた医師たちは、女性の性欲を目の当たりにしていたにもかかわらず、それはあくまで“控えめなもの”だとし、女性が欲望のまま自分を癒す行為を禁じていたのだとか。
また、権威ある精神科医が「腟でオルガズムを得られない女性は未熟である」と根拠のない謎の理論を振りかざしていた時代もありました。
そのせいか“挿入でのオルガズムこそ快感の最高峰である”というあやまった考えが広まってしまい、現代でも多くの女性が抱える悩みのひとつとして根付いています。
女性にも性欲があると医学的真実の発見があった一方で、これを社会が認めない状況は、多くの女性を苦しめたでしょう。
セクシャリティや快感を求めることに対するネガティブな側面には、社会、宗教、時代背景が隠されている場合も少なくないのです。
根拠のない固定概念は捨ててしまいましょう!
女性だって快感を求めていいんです。そして、絶頂のきっかけが腟であれ、外陰部であれ、はたまた妄想であれ…オルガズムはオルガズム。そこに優劣は存在しません。
今この瞬間に自分に湧き起こる快感を、存分に味わいましょう!
「気持ちいい!」に正直になろう
時代は変わり、女性の〈性〉に関するテーマが豊富になってはきたものの、セックスの悩みが尽きることはありません。例えば、「セックスで快感やオルガズムを得られない」は、よく耳にする話題です。
解決法はいくつかありますが、まずは自分の気持ちいいポイントを自分で知ることから始めてみてください。
最近では〈セルフプレジャー〉という言葉も浸透し、女性であっても性の悦びを自分自身で得ることをポジティブにとらえる動きが生まれています。
素直に、包み隠さず、自由に欲求を満たすことこそ、快感への近道です。
「どこをどうタッチすれば気持ちいいかな?」を知るために、まずは自分で触れて感じてみましょう。
指を使うことに抵抗がある方は、プレジャーアイテムに頼ってみるのも選択肢のひとつ。
そして、イマジネーションも大事なポイントです。体へのタッチだけではなく、官能的な気分を引き出してくれるきっかけを探してみてください。
次のステップは、それをパートナーに伝えること。これは、前回のコラムでお伝えした“痛み”と同じです。なぜなら、“快感”は“感覚”で、あなたにしかわからないものだから。
快感への導かれかたは百人百様です。あなたがパスワードを伝えないまま、パートナーに頼りきりで、快感の扉を開いてもらうのは至難のワザだと思いませんか?
これは、手料理を振る舞おうとしてくれているパートナーからの「何が食べたい?」という質問に対して「なんでもいい」や「何が好きかわからない…」と答えてしまっているようなもの。
もし
「ビーフストロガノフが食べたいわ。時間をかけて、じっくり煮込んだ方が好みよ。最後の仕上げにパセリを振りかけると、味のバランスも香りも最高ね。」
と(ぶっきらぼうではなく、艶っぽく)具体的に答えたとしたらどうでしょう?きっと、料理上手なパートナーの腕がなるはずです。
一方で、本当は快感ポイントを知っているけれど、恥ずかしくてパートナーにうまく伝えられない場合もあると思います。
あなたが本当に食べたいのは「ポトフ」だとします。しかし、パートナーが作るのものがひたすら「味噌汁」だったとしたら?
あなたが、罪のない味噌汁を恨む日が来る前に「今日は味噌汁じゃなくてポトフが食べたいな」と、優しく伝える勇気を持ってみてください。
恥ずかしさの壁を超えるポイントは、ベッドの上だけでなく、日頃の生活の中で〈性〉の話をスムーズにできる間柄でいる心がけをすること。自分の希望を伝える前に、相手のリクエストを聞いてみるのも良いでしょう。
ちょっとしたことかもしれませんが、そのちょっとの積み重ねは、いずれ大きな亀裂となり、やがてセックスが苦痛になる可能性だってあります。
「気持ちいい!」という感覚に正直になり、それをパートナーと共有することは、とても大切なコミュニケーションのひとつです。
まずは自分で感じてみること。そしてそれをパートナーに伝えること。セルフプレジャーはより良いセックスを楽しむための練習だと思って、自分のからだに触れてみてください。
「気持ちいい!」の科学
セックスで得られる快感には素晴らしい科学が詰まっています。そのひとつを紹介しましょう。
愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンをご存知でしょうか?オキシトシンは、分娩の際に子宮を収縮させ、母乳の分泌を促すホルモンです。それだけでなく、ストレス解消や不安の軽減にも欠かせないと言われています。
なんとこのオキシトシン、オルガズムを感じてから約1分後に、血流に大量放出されることがわかっています。
さらに興味深いのが、オキシトシンの放出によってセロトニンの分泌が促進されること。セロトニンは幸せホルモンとも呼ばれており、感情のコントロールや心のバランスを整えるのに役立っています。
加えて、セロトニンを原料にして作られるのが、眠りのホルモンであるメラトニン。
つまり、快感を得るとオキシトシン(愛情ホルモン)が放出され、それがセロトニン(幸せホルモン)→メラトニン(眠りのホルモン)となり、連携プレーのように私たちの体を健やかに保ってくれているのです。
性欲が、健康に生きていくために必要なものであることを、よりロジカルに理解していただけたかと思います。
快感を得るって、本当に素晴らしいんです!
ただし、快感を得るための手段として、セックスだけにこだわる必要は全くありません。
もちろん、オルガズムへの到達も必須ではないのです。友人とハグをしたり、動物と触れ合ったり、自然の中を散歩したりしても、連携プレーのホルモンたちは十分に放出されます。
セクシャルな面だけではなく、暮らしの中に溢れている「気持ちいい!」を感じてみることが大切です。
さいごに
今回は“快感”についてのコラムでした。
「気持ちいい!」の扉が、少しでも開かれた感覚があればとても嬉しく思います。
性欲は、人間が人間らしく生きるための、ごく自然な生理的欲求。決して恥ずかしいことではありません。
Q:セックスは何のためにするのでしょう?
この答えのひとつが「快感を得るため」であったとしても、それは人間として最もらしい回答だということです。
湧きおこる快感を悦び、味わってみてくださいね。
著者プロフィール

宮窪るな(みやくぼ るな)
植物療法士/フェムケアセラピスト
離婚をきっかけに体調を崩し、月経前不快気分障害(PMDD)や月経困難症に悩まされるようになる。できるだけ自然のちからで心身に向き合いたいという信念から、植物療法専門校「ルボアフィトテラピースクール」の門をたたき、AMPP(仏植物療法普及医学協会)の認定資格を取得。学びの中で、恩師である森田敦子先生が啓蒙活動を続ける〈性科学(セクソロジー)〉にも大きく心を動かされ、タイ・チェンマイ発祥のトリートメントである〈カルサイネイザン〉を学ぶ。現在、フェムケアサロンの活動とともに、SNSで植物療法や性の本質を発信している。
Instagram:@phyto_note_luna