最終更新 2023.09.20 by WOMB LABO編集部
みなさん初めまして。
植物療法士、フェムケアセラピストの宮窪るなです。この度、WOMB LABO編集部さんからお声がけいただき、コラムを書くことになりました。
テーマは〈性〉。日本ではまだまだタブー視されている性の話を、数ヶ月にわたってお伝えしていきます。
もくじ
間違った知識で、心が傷ついたままになっていませんか?
〈性科学(セクソロジー)〉の研究をすればするほど、「この情報、もっと前に知っておきたかった…。」とモヤモヤすることが多々あります。
フェムテックブームも相まって、今でこそ性に関する情報をSNS上でよく見かけますが、一昔前までは勉強したり、知識を得たりする手段がありませんでした。
例えば、かつてのパートナーから浴びせられた性に関するなにげない一言が、今もなお、呪いの言葉のように自分を悩ませている、という方も多いのではないでしょうか?
実は私も、思い詰めてしまっていた時期がありました。具体的に「君はイクのに時間がかかる。」と指摘されたことがあります。
今なら「女性の体の仕組みを十分に理解していないお方なのね。」と軽く流せますが、当時まだ20代前半だった私は「自分の体は、他の女性とはどこか違っていて、欠陥があるのでは…?」と深く悩みました。
でもこれは、相手にも、そして自分にも正しい知識がなかったからこそ起こった状況。つまり当時の私は、本当は傷つかなくてもいいところで傷ついてしまっていたのです。
もし、あの頃にタイムスリップできたら「あなたの体は正常よ。無罪放免!」と自分を慰めてあげたいぐらい。
特に、性自認や性体験がトリガーとなって生まれた感情は、自己肯定感にも直結するセンシティブなもの。だからこそ、性に関する正しい知識を身につけるべきだと、私は強く信じています。
しかし現実は、性の話になると、どこか下品で卑しい“下ネタ”として扱われる風潮がただよっているように感じます。
『古事記』や『春画』『あぶな絵』など日本は〈性〉におおらかな国だった
かつての日本は、性に対して今よりもおおらかな国でした。
そもそも日本という国自体が、『古事記』に出てくるイザナギとイザナミ、二人の神の性交によって生まれた島々なのです。
ある日、イザナミはイザナギに言いました。
「私は…どんなに成長しても、ずっと“足りないところ”があるの。」
それを聞いたイザナギはこう返しました。
「実は僕にも…どんなに成長しても、ずっと“余ったところ”があるんだ。」
愛が通じた二人は、お互いの“足りないところ”と“余ったところ”を重ね合わせることにします。こうして生まれた島が、淡路島です。イザナギとイザナミはその後も国生みを続け、日本国土が完成します。
『古事記』は日本最古の歴史書であり、その大半は神話。男女二柱の性交によって始まる世にも珍しい神話が、今も語り継がれていると思うと、日本人としてとても誇らしい気持ちになります。
また、性の交わりを描いた『春画』や、日常生活の中で女性の肌がちらっと見える瞬間を表現した『あぶな絵』などを見ても、かつての日本が、いかに性に対しておおらかだったか、容易に想像ができますよね。
家族や地域レベルで自然に行われていた日本の性教育
次は、日本における、これまでの性教育のあり方を見てみましょう。
例えば、月経を不浄なものとみなしていた時代。月経中の女性を忌み嫌って隔離するための〈月経小屋〉なるものが存在しました。こう聞くと、ネガティブな慣習にも思えますが、年上の女性から若い少女たちへ性教育をする場になっていた、というポジティブな側面もあったのです。
さらに、家事や育児に追われる女性たちが、日々の忙しさから離れて一息つく場になっていたとも考えられます。
また、男性が意中の女性の寝室に忍び込む〈夜這い〉と呼ばれる風習も、地域ごとのルールで行われていた時代もありました。一説によると、自分の娘になかなか〈夜這い〉がこないことを心配した親が、信頼できる村の年長者に「うちの娘を頼んだ。」と〈夜這い〉の申し込みをしていたとか。
もしかすると、女性たちの初体験は、正しい性の知識がある大人の男性によって、優しくリードされていたのかもしれませんね。補足しておくと、女性側に性交の同意・不同意の権利はあったとされています。
〈月経小屋〉や〈夜這い〉のように、かつての日本では、親から子へ、そして地域の年長者から少年少女へ向けて、当たり前のように性教育がなされていたのです。
〈はどめ規定〉により閉ざされてしまった今の性教育
しかし時代は変わり、地域の風習は徐々になくなってしまいました。いつの間にか、性の話はタブー視され、下品で卑しいものとみなされていきます。
教育や情報共有はおろそかになり、性に関する正しい知識がないままセックスをしたことで、傷つき、犠牲になっていく少年少女があとを絶ちません。
今の日本の教育には、通称〈はどめ規定〉と呼ばれるものがあります。中学校学習指導要領の保健体育編には
「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする。」
と書かれています。人によっては初潮を迎え、精通を経験しはじめる大切な時期に、子どもたちはセックス(妊娠の経過)について正しく学ぶ機会を失っているのです。あらゆるSNSで情報が飛び交ういま、子どもたちは、良くも悪くも性に関する情報に晒されているでしょう。
異性の体やセックスに興味を持ち始める年齢だからこそ、望まない妊娠や性的暴力を避けるためにも、包括的な性教育が必要です。
こう考えると、中学校の授業で「妊娠の経過を取り扱わない」のはあまりにもナンセンス。海外の性教育事例と比べても、日本は性教育後進国だと認めざるを得ません。
アダルトビデオは幻想!お手本にしてはダメ
適切な時期に、正しい性教育がなされなかった弊害は、子どもたちだけに生じているわけではありません。不十分で間違った性の知識を携えたまま年齢を重ね、痛みに耐え、快感はなく、どこか満たされないセックスを積み重ねている大人たちもたくさんいます。
かつての私のように、誰にも相談できないまま、傷や悩みを抱えている人たちも多いのではないでしょうか。
それもそのはず。性の話は隠され、はどめをかけられてきた訳ですから。相談できる大人は周りにおらず、下品な人だと思われたくないから友人にもなかなか言えない。
本当は大切な性の話を口にできる場は、時代とともに消え去りました。そうして、今を生きる私たちに残された、唯一の“性の教科書”となってしまったものはなんでしょうか?
答えは、アダルトビデオです。
ここまで長々と説明してきましたが、今回もっとも強調したいのはこれです。
「アダルトビデオは、ファンタジー。男性が、効率よく射精を済ませるために作られた幻想である。」
これだけはぜひ忘れないでください。アダルトビデオは幻想で、生身の人間同士でおこなう現実のセックスにあてはめるのは、筋違いです。
私はよくこう考えます。
「ホウキに乗って飛べる魔法使いのファンタジー物語、それを観た後で、実際にあなたもホウキに乗って飛べると思いますか?」
答えはNO。それはあなたが、ファンタジーは現実ではない、と理解しているから。アダルトビデオも同じことが言えます。観て楽しむぶんには良いのですが、実際に生身の人間であるパートナーに対して同じことをしてしまうと、心も体も、傷つけてしまう可能性が高いことをぜひ覚えておいてほしいと思います。
特に女性の場合は、作品の中に出てきた女優さんと同じような反応をする必要はありません。相手に気を遣って無理に演じてみたり、本当は痛みを感じているのに、快感を得ているふりはもうこれで終わりにしましょう。
あなたの体を守れるのは、あなただけ。自分の体の声にもっと正直になり、痛みや快感を、勇気をもってパートナーに伝えてみてください。
さいごに
初回は、日本の性教育についてお話ししました。これからも〈性〉に関する知識や本質、読んでくださっている方々の悩みや疑問にそえるテーマを発信していきます。
次回のテーマは、先ほども触れた、セックスで感じる痛み。女性、そして男性にも読んでいただけると嬉しいです。
著者プロフィール
宮窪るな(みやくぼ るな)
植物療法士/フェムケアセラピスト
離婚をきっかけに体調を崩し、月経前不快気分障害(PMDD)や月経困難症に悩まされるようになる。できるだけ自然のちからで心身に向き合いたいという信念から、植物療法専門校「ルボアフィトテラピースクール」の門をたたき、AMPP(仏植物療法普及医学協会)の認定資格を取得。学びの中で、恩師である森田敦子先生が啓蒙活動を続ける〈性科学(セクソロジー)〉にも大きく心を動かされ、タイ・チェンマイ発祥のトリートメントである〈カルサイネイザン〉を学ぶ。現在、フェムケアサロンの活動とともに、SNSで植物療法や性の本質を発信している。
Instagram:@phyto_note_luna