最終更新 2024.08.12 by WOMB LABO編集部
みなさんこんにちは。
植物療法士、フェムケアセラピストの宮窪るなです。
今回のテーマは、セックスで感じる“痛み”について。前回の「日本の性教育のあり方」よりもグッと踏み込んだ内容をお伝えしていきます。
どうぞ心をリラックスさせて、最後までお付き合いくださると嬉しいです。
もくじ
セックスで感じる“痛み”に向き合ったこと、ある?
いきなりですが、質問です。
【あなたは、セックスの時に痛みを感じていますか?】
人によっては、答えるのに少し勇気がいるのではないでしょうか。〈性〉というテーマでさえ、長いあいだ日の目を浴びてきませんでしたから〈セックス〉に関する直球な質問をされると、少しドキッとしてしまいますよね。
【ジェックス】ジャパン・セックスサーべイ2020の調査によると、20代から60代の日本人女性のうち、実に2人に1人が「セックスで痛みを感じている」と回答しています。
この結果を聞いて「私だけじゃなかった!」と安心した方もいるかもしれません。驚くなかれ、女性がセックスで痛みを感じているのは、決してめずらしいことではないのです。
ならばこの問題を、これまで以上に取り上げていく必要があるでしょう。
次の質問です。
【セックスで感じる痛みを、パートナーに伝えていますか?】
先ほどと同じ調査では「痛みがある中でも性的に満足している」と答えた女性は、ほとんどの世代で半数以上(50代女性に限り43%)、そして「セックスで痛みがあった後もなんとか最後までできる」と答えた女性は、平均で8割以上にものぼるのです。
日本人女性の痛みに対する“スルー能力”には、目を見張るものがあります。
では、痛みをスルーしているこの状況を、冷静に考えてみましょう。
私たちは普段の生活のなかで、例えば体に刺すような痛みを感じたら、声に出して「痛い!」と叫びますよね?または子どものころ、誰かから痛いことをされたら「やめて!」と言うように教わってきたはずです。
しかし、いざセックスの場となると、女性はなぜ、体で感じている痛みを無かったことにし、心の声を消し続けるのでしょうか。
かくいう私も、これまでのセックスで痛みを感じてきた張本人。特に10代〜20代前半の頃は、痛みを感じるたびに心と体に嘘をつき、自分にこう言い聞かせてきました。
「世の中の女性はみな、この痛みを我慢している」
「痛みをパートナーに伝えるのは、気が引ける」
「痛みの原因は、たぶん私の体が未熟だからだ」
「私がこの一瞬を耐えれば、じきに終わる」
このコラムを読みながら「自分にも痛みがある」または「これまで痛みがあった」と頭によぎった方は、ぜひ一緒に考えてみてください。
あなたはこれまで、セックスの痛みに、どう向き合い、何を感じてきましたか?
大切なのはあなた
かつての私は、セックスの痛みを、世の常だからと無いものにし、自分のせいだと決めつけてきました。しかし、その考えが徐々に変わっていったのは、性について学び始めたころ。
正しい性の知識を携え、女性の体の仕組みを理解していくことで、世間の当たり前が必ずしも自分にあてはまるとは限らないことを知りました。そして、相手への無理な気遣いや自分の犠牲よりも、もっともっと大切なことがあると気がついたのです。
それは、
『わたしの体はどう感じ、わたしの心はどう思っているの?』
ということ。
自分から出てきた答えはとてもシンプルでした。
『わたしの体は痛いと感じ、わたしの心は苦しいと思っている。』
“痛み”は“感覚”です。感覚というのは、誰とも比べようがありません。つまり、自分だけにしかわからないものなのです。
また、人間は順応していく生き物だと言われています。それ自体は素晴らしい能力なのですが、悲しいことに人間は“痛み”にも順応してしまいます。自分だけにしかわからない痛みを無視し、感覚に嘘をつくことに慣れてしまった結果、私たちはどうなってしまうでしょう。
自分自身が「痛い」と感じているのであれば、そこにフタをせず、まずはその状況を素直に抱きしめてあげること。そしてしっかりと向き合うことが、自分の心と体を守ってあげる手立てになるだろうと、私は強く思います。
痛みの原因を探ろう
セックスで感じる痛みに向き合うためには、まず女性の体の仕組みをきちんと知ることが大切です。
そもそも、なぜ痛みを感じるのでしょう?原因は大きく3つあります。
1つ目は、前回のコラムでもお伝えした通り、間違ったまま行われてしまっているセックスの所作によるもの。2つ目は、腟の潤い不足によって起こる摩擦。3つ目は、何かの病気が隠れている場合です。
腟は、とてもしなやかで伸縮性のある筋肉からできています。内側の粘膜はいつも少し湿っていますが、女性が性的に興奮することで、さらに潤いが増す仕組みになっています。これは、生殖器全体の血流がよくなることで、腟の入り口や腟壁から分泌液がしみ出てくるため。この分泌液が、挿入による摩擦をやわらげ、精子の動きをスムーズにする潤滑剤となるわけです。
大切なのは、腟から分泌液が出るタイミングや量には段階があること。4段階に分けて考えられている、人間の性的反応にそって説明しましょう。
- 興奮期:体または心に対する性的アプローチにより興奮し、生殖器の充血が見られ、分泌液が出される時期。
- 高原期:適切な刺激が続けられた結果、オルガズムを求める時期。
- オルガズム期:性的興奮の絶頂期。セックスでオルガズムを感じる女性は3分の1程度とされている。
- 回復期:生殖器の充血が和らぎ、平常時に戻っていく時期。
腟から分泌液が出はじめるのは第1段階の興奮期ですが、潤いはまだ十分とはいえません。この時期に焦って挿入してしまうと、摩擦による痛みが生じてしまうので、せっかく起こった興奮も消失。振り出しに戻るどころか、女性側からすれば、むしろマイナス地点にいるような感覚に陥ります。
ただし、性的反応の4段階はひとつの指標であり、すべての女性に同じくあてはまるものではないことも覚えておく必要があるでしょう。
高原期で潤いが足りない女性もいれば、性的興奮がなくとも、摩擦による刺激を避けるための防衛本能から、意思に反して分泌液を出す女性もいます。
つまり『感じているけど濡れていない』場合もあれば『感じていないけど濡れている』場合もあるということです。女性の体は繊細ですね。
潤滑ローションは素晴らしい選択肢のひとつ
個人差に加え、ホルモンの周期によって体調が大きく揺らいでしまうのも女性ならではの悩み。周期によっては、どんなに時間をかけても腟の潤いが足りない場合もあります。そんな時は、積極的に潤滑ローションを使ってみましょう。
潤滑ローションを使うことに抵抗を感じ、パートナーに伝える勇気が持てない方も多いと思います。
しかし大切なのは、あなたがセックスで感じる痛みから目をそらさないこと。体の痛みや心の声を無くさないこと。
あなたがセックスの痛みに正面からしっかりと向き合った結果、潤滑ローションを選んだとするならば、それは誇るべきアクションです。摩擦による痛みや出血から、自分の身を守るすべとして、ぜひ手に取ってみて下さい。
今回は、実際に私が使用している潤滑ローションを2つ紹介します。参考にしてみてくださいね。
まずは定番中の定番、アンティームオーガニックのローズローションです。デリケートゾーンの保湿ローションでありながら、潤滑ローションとしても使えるので、購入のハードルが低く、手に取りやすいのも嬉しいポイント。長く女性に愛されてきたローズの香りが、セックス時に抱く不安な気持ちを、優しく包み込んでくれます。
次に紹介するのは、個人的ベスト・バイのお気に入り商品、ラブルーブのウォーターベースローション。思わずパケ買いしてしまう可愛さに加え、天然成分と植物由来成分のみで精製されている安心感もあります。そして「OKAY LET’S PLAY」とはなんとも粋なデザイン!こちらは無香タイプですが、同じブランドから、ベリーやハニーの風味と香りがするものが売られているのもナイスプレイ。
腟だって準備運動がしたい
しなやかで伸縮性のある筋肉からできているとはいえ、腟にも準備運動が必要です。勢いよく前屈や開脚をして「イタタ…!」となった経験は誰にでもあると思いますが、これは腟でも同じ。男性器やプレジャートイをいきなり挿入するのではなく、しっかりと前戯(準備運動)に時間をかけましょう。
粘膜である腟に何かが挿入される瞬間は、それがどんなに大好きなパートナーであったとしても、無意識にこわばってしまうもの。コミュニケーションを取りながら、体だけではなく心もほぐしてあげることが、痛みの回避に繋がります。
また、腟の筋肉を柔軟に保つために、日頃から腟トレやデリケートゾーンケアを習慣化してみましょう。
私が使っているのはヨニパワー2という腟トレアイテム。重さと大きさが違うボールを、段階に合わせて挿入します。目的は骨盤底筋群のトレーニングですが、同時に腟のストレッチも期待できて一石二鳥!スムーズに挿入するために、水溶性のローションとの併用がおすすめです。
そして忘れてはならないのが、セックスで感じる痛みの裏に、子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が隠れている場合があること。セルフケアをしてもなかなか痛みが改善しないのであれば、一度、医療機関で診てもらいましょう。
もちろん痛みがない場合でも、婦人科の定期検診はマスト。気軽に通える婦人科をひとつ見つけておくと安心です。
痛みをなくすカギは、対話にあり!
ここまで、準備運動といえる前戯をおこたり、潤いが十分でない腟にいきなり挿入することで、女性の心と体を傷つけてしまうことがお分かりいただけたかと思います。
セックスはコミュニケーション、いわば対話です。お互いの話を聞き、意思を尊重しあうことから始まります。
悲しくもセックスのお手本になってしまっているアダルトビデオの中では、男性主導となって、まるで一方通行の会話のようなセックスが繰り広げられていますが、あれを正解だと思ってマネすることはとても危険です。
ちなみに、アダルトビデオの制作陣は、とある研究を重ねて作品をつくっています。彼らが研究しているのは、男性の“性欲”ではなく、男性が一般的に強く抱くとされる“支配欲”です。
要するにアダルトビデオには、男性が女性を支配したい、コントロールしたい、という欲求が隠されていると言えます。
どちらか一方の支配のもとに成り立つアンフェアなセックスに、心や体の痛みがないことなど、むしろあり得るのでしょうか。
一方通行のような会話にならないためには、これまで聞き手に徹していた方も、積極的に対話に参加することが重要です。コミュニケーションが一人ではできないように、セックスも一人では成り立ちません。
つまり、どちらか一方が痛みを抱えているのであれば、それは二人で向き合うべき問題。「パートナーに申し訳ないから」と言って、一人で痛みを抱える必要はないのです。
また、パートナーとセックスに関して、スムーズに話ができる間柄でいるための心がけを、日頃から意識しておくのも良いでしょう。
「今日はちょっとローションを使ってみたいんだけど、いいかな?」
「痛みがあることを正直に言ってくれてありがとう。」
こんなことが素直に言い合えるような関係は、とても理想的です。
さいごに
今回は、セックスで感じる“痛み”に関するコラムでした。心が少しギュッとなってしまった方もいるかもしれませんね。
これまで痛みを感じてきた方は、どうぞご自身の心に手を当てて、優しくねぎらいの言葉をかけてあげてください。
痛みに向き合い、性について学ぶことは、自分の心と体を守り大切にすることです。
パートナーがいてもいなくても、セックスがあってもなくても、これらを知っておくことで役に立つことはたくさんあります。
私も学びを続けていきますので、今後もこの場で共有しますね。
著者プロフィール
宮窪るな(みやくぼ るな)
植物療法士/フェムケアセラピスト
離婚をきっかけに体調を崩し、月経前不快気分障害(PMDD)や月経困難症に悩まされるようになる。できるだけ自然のちからで心身に向き合いたいという信念から、植物療法専門校「ルボアフィトテラピースクール」の門をたたき、AMPP(仏植物療法普及医学協会)の認定資格を取得。学びの中で、恩師である森田敦子先生が啓蒙活動を続ける〈性科学(セクソロジー)〉にも大きく心を動かされ、タイ・チェンマイ発祥のトリートメントである〈カルサイネイザン〉を学ぶ。現在、フェムケアサロンの活動とともに、SNSで植物療法や性の本質を発信している。
Instagram:@phyto_note_luna