こんにちは。植物療法士、フェムケアセラピストの宮窪るなです。
このコラムを読んでくださっている皆さんは、少なくとも性に関心を寄せ、それにまつわる情報を得たいと考えておられる方々だと思います。
私が性に興味をもち、学びはじめた理由は、私自身が性について相談できる場所に迷い、傷ついた心を軽くする方法を求めていたからです。
性は、ほかとは比べものにならないほどの幸福感を与えてくれる一方で、その使い方を間違えてしまうと、とんでもなく人を貶めることができるもの。
だからこそ、私たちは性について、学ばねばなりません。
これまで、一年にわたって性の話をお伝えしてきたこの連載も、今回が最終回。いつもコラムを待っていてくださった皆さま、本当にありがとうございます!
ということで今回は、これまでお伝えした内容の総まとめです。すべてのコラムをじっくり読む機会がなかった方も、どうぞ最後までお付き合いくださいね!
もくじ
痛みに正直になろう
セックスで、痛みを感じていませんか?
【ジェックス】ジャパン・セックスサーべイ2020の調査によると、20代から60代の日本人女性のうち、「セックスで痛みを感じている」と答えた人は2人に1人。あなたはこの現実をどう受けとめますか?
実は私も、長い間、心と体に嘘をついてきた張本人。
強すぎる刺激や摩擦による痛みをスルーし、「痛いな、早く終わらせたいな」という心の声を消し続けてきました。なぜなら「セックスで女性は苦痛を感じるもの」「それが世の常だ」と勘違いしていたからです。
しかし、その考えが徐々に変わっていったのは、性について学びはじめたころ。
どんなに苦痛でも、性にたいする興味を絶やさなかった私は、正しい知識をたずさえ、女性の体の仕組みを理解することに勤しみました。
そうするうちに、世間の当たり前を必ずしも自分にあてはめる必要はないと知り、パートナーへの無理な気遣いや自分の犠牲よりも、もっともっと大切なことがあると気がついたのです。
それは、
『わたしの体はどう感じ、わたしの心はどう思っているの?』
ということ。
“痛み”は“感覚”です。感覚というのは、誰とも比べようがありません。つまり、自分だけにしかわからないものです。
自分自身が「痛い」「苦しい」と感じているのであれば、そこにフタをせず、まずはその状況を素直に抱きしめてみませんか?
痛みに向き合い、性について学ぶことは、自分を大切にすること。あなたの心と体を守れるのは、あなただけなのです。
そして、「痛みを感じている」と勇気をもってパートナーに伝えてみるのも大事なポイント。それが難しい状況なのであれば、潤滑剤など、アイテムの力を借りるのもいいでしょう。
セックスは、パートナーがいてこそ成り立つものですよね。つまり、どちらか一方が苦しさを感じているのであれば、それは二人で向き合うべき課題です。「パートナーに申し訳ないから」といって、独りで痛みを抱える必要はないんですよ。
性欲はヘルシーな欲望
わたしたち人間は、なんのためにセックスをするのでしょうか。
子孫を残すため?はたまた、快感を得るため?
子どもを望まない夫婦、同性のパートナー、そして熟年カップルの間でもセックスがあるように、たとえ生殖の輪の外側にいたとしても、肌を重ね、快感を求める機会をもつのはごく自然な営みです。
しかし、日本ではいまだこういった風潮を感じませんか?
「いい歳してセックスなんて!」
「女性からガツガツ来られるとなんか引く…」
「マスターベーションはダメなもの。」
私もかつて「(特に女性が)性欲を抱くのは恥ずかしいこと…?」と悶々と悩んだ時期がありました。
でも、今ならわかります。それは大きな間違いだと。
性欲はよく、三大欲求のひとつとされますが、これは私たちが抱く欲求のベース、生理的欲求のなかに含まれています。生理的欲求をシンプルにいうと、人間が健康に生きていくために必要最低限な欲求です。
つまり性欲は、食欲や睡眠欲と同じく、命を紡いでいくために奪われてはならない権利でもあると言えるでしょう。
最近では〈セルフプレジャー〉という言葉も登場し、女性であっても性の悦楽を自ら得ることをポジティブにとらえる動きが生まれていますよね!恥じらいや罪悪感を抱く方もいるかもしれませんが、私たちは、自分で自分を悦ばせても良いのです。
ただ、女性器は男性器に比べ、とてもデリケートで複雑なつくりになっており、たくさんの神経が密集しています。そのため、“参考書”を読んだだけの頭でっかちな作法ではもちろん、鍛錬を重ねずして、女性を快感にみちびくことはできません。
さらに、そのプロセスもまた、百人百様。相手に頼りきりで快感の扉を開いてもらうのではなく、その扉のパスワードを自分からパートナーにきちんと伝える必要があります。
まずは自分で感じてみましょう。素直に包みかくさず、自由に欲求を満たすことこそ、快感への近道です。
性的な欲望は、暮らしのなかに自然とおこるもの。そして快感は、わたしたちが健やかに生きるうえで大切な悦びであると覚えていてくださいね。
自分を抱きしめる時間
セルフプレジャーを難しく感じてしまう場合は、デリケートゾーンケアからはじめてみるのも良いでしょう。
私たちは日ごろから、肌と肌をあわせ、スキンシップと呼ばれるコミュニケーション手段をとります。なにげない仕草や習慣であるように思える“触れること”ですが、実は、私たちにもたらす力は絶大です。
触れあう相手は家族、友人、動物、そして恋人などさまざまですが、誰かに触れられたり、もしくは誰かに触れたりすることで分泌されるホルモンがあります。
それは愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンです。
オキシトシンが放出されることで、セロトニン(幸せホルモン)の放出が促され、さらにそれを原料としてメラトニン(眠りのホルモン)が作られることは、この連載で何度もお伝えしてきましたね!
皮膚にはたくさんの感覚受容器があり、そこで受けた情報は神経系をとおして脳へ伝わります。その密集度はからだの場所によって違い、なかでも多いのは、くちびると外性器。
私たち人間は知ってかしらずか、感覚受容器が密集している部分をもちいて、性的なコミュニケーションを楽しんでいるのです。
そしてよく出来たことに、たとえ触れあう相手がいなくても、私たちは自分自身に触れてあげることで、“触れること”のパワーを十分に得られるとされています。
究極のセルフタッチはやはり、たくさんの神経が集まっている外性器に、自分で優しく触れてあげるデリケートゾーンケア。
女性の人生は痛みの連続です。月経痛やPMS、性交痛、出産、そして更年期…。一生、痛みとの付き合いが続きます。
私たちは、本当によく頑張っていますよね!そんな自分自身へ、優しく手を当ててみませんか?
とくにデリケートゾーンは、自分が女性であることや女性性を否応なく感じる部分。まずはそこに意識をむけ大切に触れながら、自分を愛しむ時間を増やしてあげて欲しいのです。
デリケートゾーンケアはまさに、自分を抱きしめてあげる時間。
もしもその先に、快感の欲求が芽生えたならば、そのままセルフプレジャーを思うままに楽しんでも良いんですよ!
セックスレスと向き合う
日本のセックスレス人口は増加の一途をたどるばかり。
2024年におこなわれた日本人の性の実態調査では、婚姻関係がありながら、性交渉が1カ月以上ないと回答した人の割合が6割を超えていました。
日本性科学会によるセックスレスの定義は『特殊な事情が認められないにも拘わらずカップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1ヶ月以上なく、その後も長期に亘ることが予想される場合』とされています。
私は、約10年にわたるセックスレス経験者です。
セックスレスだった日々は苦しく、その時の感情は今でもシクシクと疼く古傷のように残っています。
ただ、セックスレスを闇雲にダメなものだと決めつけるのにも違和感があります。なぜなら、セックスレスに悩んでいるカップルのお話を聞き、また自身の経験を振り返ってみると、これらには数字だけでは表せない複雑さがあると感じているからです。
実際に別の調査では、「いわゆるセックスレスの状態にあるけれども仲はいいと感じている」と答えた夫婦の割合は過半数超え。
そう聞くと、セックスレスそのものが、当事者それぞれの主観によって、定義に幅があるものだと感じますよね。
原因も、カップル同士でセックスの目的が違っていたり、産後に変化があったりさまざまです。セックスレスを話題にすることを恥ととらえ、誰にも相談できないまま数年が経ってしまうケースもあるでしょう。
このように、個人はもちろん、カップルや夫婦はそれぞれに違った歴史を持っているからこそ、それをひとつずつ丁寧にひもとき、セックスレスというセンシティブな課題に向き合いたいものです。
「セックスはコミュニケーションである」とはよく言われますが、私はカラダの関係を深めることと同じくらいに、パートナーとの言葉によるコミュニケーション(対話)が重要だと感じています。
さらに、相手との対話をはじめる前に、自分自身にも問うてみる必要もあるでしょう。
「自分にとって、セックスってなに?」
「パートナーと、どういう関係でいたいんだろう…」
「セックスレスの今の状況を、私はどう感じてる?」
私がかつてセックスを拒まれたときに感じていたのは、どこか欠けている自分、なにかが埋まらない淋しさ、隣にパートナーがいても感じる孤独などでした。
反対にセックスを拒む側にも、もちろん苦悩はあります。相手を受け入れられない罪悪感、自信の喪失、触れられたくないところに触れられる怖さ…。
対話がなければもちろん、どちらかひとりの鬱憤を晴らすような一方通行の会話では、これらの感情はすべて見落とされてしまいます。
まずはそこに意識を向け、対話をしてみましょう。
自分ひとりの問題ではないからこその複雑さはありますが、これらはどんな状況であれ、性愛をはぐくむ相手との関係を見つめ直したり、今後誰かとリレーションシップを求めたりするときにも必要になってくるアクションです。
個人やカップル、夫婦にはそれぞれ違った物語があり、セックスレスの原因も多様であるならば、解決策やゴールのかたちに正解はありません。
対話を重ね、二人から生まれたベターな選択こそが、なによりも大切です。
〈性〉の話をしよう
これまでタブー視されてきた性の話も、昨今はだれしもがポジティブに口にできる社会へと移り変わっています。だから私も、こうして性についてオープンにお話をすることができていますが、これが許されていない時代もありました。
たとえ誠意をもって性に関する情報を広めようとしても、卑猥な下ネタだと揶揄され、プレジャーアイテムは“大人のおもちゃ”扱い。場合によっては、不当なバッシングや誹謗中傷をあびることもあったかもしれません。
厳しい性規制がしかれた中世のヨーロッパに目を向けると、個人の性行動が政府によって管理されていたという歴史も残っています。セックス自体が〈悪〉とされるルールがしかれ、自由に奔放なセックスを楽しんだ人は死刑に処されたんだとか。
それでも人々は世代を超え、この世に生きるひとりの人間の権利として、本能的に湧き起こる性の悦びを叫び続けたのです。
今、私たちがこうして当たり前に性の話ができるのも、これまでの歴史のなかで戦い続けた人たちがいるからこそ。
私は、これからも性の話をしていく一人として、このバトンを快く受けとりたいと思っています。
今でこそ、厳しい性規制に苦しめられることはありませんが、性にまつわる問題は山積みです。これまで取りあげた、痛みやセックスレスだけにとどまらず、性的搾取や虐待、デートDVやLGBTQ+…。
ほかにも、かつてのパートナーから浴びせられたなにげない一言が、今もなお、呪いの言葉のように自分を悩ませている、という方も多いでしょう。
これらは、性に対する正しい知識をえる機会があれば、避けられた問題でもあったかもしれません。
私は、性に関することで傷つく人が一人でも減るよう願っています。そして、人間としてあたりまえの権利である性の悦びを罪悪感なく、安全かつ健康的にすべての性とすべての世代の人たちが、当たり前に感じられる世の中であって欲しい。
そのために私たちができるのは、性の話をし続けることです。
性は、隠されるものではなく、正しく学び、伝えるものです。
あなたも、性の話をしてみませんか?
参考文献 Tiffany Field(2008)『Touch』二瓶社/日本性科学会 (2018)『-性機能不全のカウンセリングから治療まで- セックス・セラピー入門』金原出版株式会社/Ellen Støkken Dahl・Nina Brochmann (2019)『世界中の女子が読んだ! からだと性の教科書』NHK出版/北岡たちき(2020)『マズロー心理学と欲求階層~自分の本音を思い出す~』Independently published
出典 一般社団法人日本家族計画協会家族計画研究センター『調査結果の概要』/【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2020 『調査結果報告書(PDF)』/ 産経新聞『夫婦6割がセックスレス 性の実態調査で判明 若年男子の“絶食化”裏付けも』/ マイナビニュース『「セックスレスだけど夫婦仲は良い」既婚者の割合は?』 (参照 すべて2024-8-10)
著者プロフィール
宮窪るな(みやくぼ るな)
植物療法士/フェムケアセラピスト
離婚をきっかけに体調を崩し、月経前不快気分障害(PMDD)や月経困難症に悩まされるようになる。できるだけ自然のちからで心身に向き合いたいという信念から、植物療法専門校「ルボアフィトテラピースクール」の門をたたき、AMPP(仏植物療法普及医学協会)の認定資格を取得。学びの中で、恩師である森田敦子先生が啓蒙活動を続ける〈性科学(セクソロジー)〉にも大きく心を動かされ、タイ・チェンマイ発祥のトリートメントである〈カルサイネイザン〉を学ぶ。現在、フェムケアサロンの活動とともに、SNSで植物療法や性の本質を発信している。
Instagram:@phyto_note_luna