男の性(さが)を感じとる

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こんにちは。植物療法士、フェムケアセラピストの宮窪るなです。

皆さんは、パートナーや友人、または家族と〈性〉の話をしていますか?もしくは〈性の悩み〉を打ち明けられる人は周りにいらっしゃいますか?

ここ数年、とくに女性が性をオープンに学び、語れる社会へと変化してきたように感じます。フェムテックブームも相まって、今や性はHOTなテーマです。

女性誌でのセックス特集はあたりまえになり、女性用のプレジャーアイテムを販売する百貨店もぞくぞくと増えてきました。ウェブサイトやSNSなどでも、女性のオーガズムについて、簡単に調べられますよね。

世間の女性たちが自分の体をよく知り、それについて話す機会や、場を求めていると感じる瞬間も多々あります。そして実際に、女友達とのおしゃべりでもっとも盛り上がる話題のひとつが、セックスに関することだと言っても過言ではないでしょう。

10〜20代にかけて性の悩みを独りもんもんと抱えてきた私にとっても、これまでタブー視され、誰にも相談できなかったセンシティブなテーマが、時代とともに日の目を浴びはじめたことを、とても嬉しく感じています。

ここでひとつ忘れてはならないのが、セックスは、相手がいて初めて成立するものであること。ならば私たちは、これまで以上にパートナーや男性側の事情をもっとよく知る必要がありそうですね。

ということで今回は、男性の性にフォーカスしていきます。

男性が抱える性の悩み

月間TENGA第五十二号 特集『人には言えないオトコの性の悩み』によると、性に関する「自分自身のこと」 について、7割以上の男性が「悩みを感じたことがある」とし、ほとんどの悩みの項目について、7割以上の男性が「友人と話したことはない」と回答しています。

「今までに性の悩みを感じたことがありますか」円グラフ

なかでもEDは、打ち明けにくい悩みの代表です。EDとは〈勃起障害:Erectile Dysfunction〉の頭文字をとったもので、満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または勃起を維持できない状態が持続したり再発したりすることを指します。

一見すると、中高年で起こるものだと思われがちですが、男性不妊の原因のひとつとして年々増加の一途をたどっており、実は若い世代にもありふれた悩みです。ある調査では、20〜30代の約5人に1人が軽度EDおよび軽度〜中程度EDの悩みを抱えているとの結果も出ています(※)。こう聞くと、決して他人事ではなくなってきますよね。

また、セックスレスの背景にEDが絡んでいる場合もあり、男性側はEDだとパートナーに打ち明けられない苦悩を抱え、かたや女性側は「誘われないのは私に魅力がないから?」と思いつめてしまっているなど、本音がなかなか交わらない苦しさを感じさせます。

性の悩みを友人と会話したことはありますか」悩み別棒グラフ

勃起をシンプルにいうと、興奮やリラックスによって血液がスポンジのような組織にブワッと流れ込み、陰茎が膨張している状態です。この過程でなんらかの異常があれば、EDとなります。そしてEDは器質性と心因性、大きく2つに分類されます。

器質性EDは、高血圧や糖尿病、喫煙、睡眠時無呼吸症候群などがリスク要因です。一方の心因性EDは読んで字のごとく、心がトリガーとなって起こるもの。マスターベーションはできるのに、いざパートナーを前にすると勃たない、排卵日に限って反応しないなど、一筋縄ではいかない複雑さがあります。ケースによっては、パートナーとふたりで受けるセックスカウンセリングなどが必要です。

興味深いのが、40歳以上のED患者の半数以上が器質性EDであるのに対し、40歳以下の若い世代で圧倒的に多いのは、心因性EDであること。その割合は、実に85%以上!

かっこ悪いところを見せてしまったらどうしよう…。
今日は最後までできるかな…。
僕がリードして、彼女を喜ばせないと!
排卵日の今日こそ挿入し、射精せねば…!

あらゆる使命を果たそうと、さまざまな思いが頭のなかを駆けめぐります。

セックスは本来、ナーバスな気持ちで挑むよりも、心も体も満たされるような高揚感とともに味わいたいものですが、男性ならではのプレッシャーや不安が、ダイレクトに彼らの性反応を左右させているのです。この緊張感は、いったいどこからやってくるのでしょう?

男性にも起こるアダルトビデオの弊害

ベッドで愛を確かめ合うる男女

悲しくも、現代における“性の教科書”のように扱われてきたアダルトビデオ。

コラムvol.1では「アダルトビデオは、ファンタジー。男性が、効率よく射精を済ませるために作られた幻想である。」とはっきりお伝えしました。作品のほとんどが男性を主軸に描かれており、そこに気遣いや温もりはなく、渦巻いているのは支配欲といった欲望です。

そんなアダルトビデオには、定番の筋書きがあるのにお気づきですか?それは、男性が必ず勃起をしていて、挿入をし、激しい摩擦があったのち、射精して終わる、というシナリオ。この一連の流れがいわゆる“教科書どおりのセックス”です。

これまで(もしかすると今も)女性は、この偏った“常識”に歩調を合わせてきたことで、痛みやフラストレーションを感じてきました。激しすぎる動きは女性器を傷つけてしまいますし、粘液が十分でないままのピストン運動は地獄そのもの。男性が射精を迎えるまでのあいだ「早く終わって…!!」と心のなかで叫んだ経験のある女性も多いでしょう。

独り悩む男性

しかし私は、アダルトビデオが作り出した弊害に、男性も同じく苦しめられていると感じています。女性の興奮の度合いやオーガズムは、目には見えにくいものですが、男性は、勃起や射精という目に見えるカタチで性反応が起こるため、ある意味、そこがセックスにおけるスタートとゴールになってしまうからです。

女性にとって、オーガズムのないセックスは日常茶飯事ですが、男性は違います。だからこそ“一連の流れ”が困難だったとき、バツの悪さを感じたり、男としてのメンツが崩れてしまうような感覚におちいったりするのです。これが、アダルトビデオが生んだ“常識”による弊害だと、私は考えます。

今の時代でも、勃起は男らしさの象徴で、射精はセックスの究極であり生命力の指標などといった見方はまだまだあります。このような表現はナンセンスでありながらも、どこか雄々しく本能的で、男のさがとして彼らの頭から完全に消しさるのは難しい感覚なのかもしれません。

男性を男性たらしめる中核であり、女性が感じたことのない重圧だとも言えるでしょう。それが達成できなかったときに沸いてくるのは、なんとも形容しがたい喪失感だと想像します。

セックスの“こうあるべき”は誰のためにあるの?

男性社会に生きる男性

EDで悩む男性、そしてアダルトビデオや世間が勝手に作りあげた性の常識にとらわれてしまっている多くの人に、いま一度考えて欲しいことがあります。

セックスの“こうあるべき”は誰のためにあるの?ということです。

私たちは誰のために、何を手本に、肌を重ねているのでしょう?セックスは、自分とパートナーだけの世界。そこに、性の常識や世間の指標がどれだけ関係ありますか?

男性主軸である必要などありません。射精が難しそうなら途中でやめてもいい。挿入中に小さくなったら抜いてしまってもいい。勃たない日は、ただただ裸で抱き合えばいいのです。

セックスには、スタートもゴールも、正解すらもありません。

自分たちのために、自分たちのセックスを、もっと自由に楽しんでいいんです。

自分の声を聞く

勃起力こそ男の証だという考えは確かにあるでしょう。もしそれが叶わなかったとき、男としてどこか欠けている感じがするかもしれません。友人にも、パートナーにも打ち明けられず、孤独を感じることもあるでしょう。体の内側から、声にならない情けなさのような感情が突き刺してくる痛みは、当人にしかわからないつらさがあります。

しかし、私はこうも思います。勃起し、射精することが男性としての役割、すべてではないことを忘れないでほしい、と。生殖機能だけで測った男らしさほど、つまらないものはありません。なぜなら、それだけのことで人間はできていないからです。だから焦らず、時間をかけて、ゆっくりと向き合っていけばいい

逆にこうも考えられます。サイズとパワーさえあれば、パートナーを満足させるセックスが約束されるのか?答えはNO。その使い方を間違えれば、簡単に人を傷つける凶器となってしまいますよね。

まずは正面から向き合ってみる

泌尿器科医で『射精道』の著者、今井伸先生は、一般的に男性は“他人に弱みを見せたくない”という考えが根底にあるとし、泌尿器科を受診する男性のなかにも、自ら悩みを話す方はそれほど多くないと述べています。「自分に限ってまさかそんな」と思いたくなる気持ちもあるかもしれませんね。

ですが、まずは正面から向き合ってみるのが出発点。これは、EDで悩む男性だけでなく、そのパートナーにも言えることです。

弱みを見せたくない自分、怖いと感じている自分、信じたくない自分、格好つけたい自分、そして、傷ついてきた自分。それらをまるっと受け入れてみる。そうした上で、これからどうしたいか、何ができるかを考えてみましょう。

たとえば、器質性ED、心因性EDにかかわらず、しっかり睡眠をとることや、バランスの取れた食事、禁酒、適度な運動などで改善がみられるパターンもあります

また「なぜ勃ちが悪いのだろう?」「いつから気になり始めたかな?」など、不調の原因やタイミングをクリアにしてみるのも大切なポイント。どうしても気になる場合や、症状が明らかに深刻な状態なのであれば、専門の医療機関の受診がなによりも最優先です。

触れ合う男女

パートナーとこれらの課題に向き合うときは「ふたりにとってセックスとはなんだろう?」「なぜ、一緒にいたいと思うのだろう?」などと、お互いが望んでいるものや関係を見つめ直すきっかけを作ってみるのも良いでしょう。

実際に、セックスに求めるものや目的として、男女で差があるという結果も報告されています。具体的に、男性は『快楽のため』であるのに対し、女性は『愛情表現やコミュニケーションのため』といった回答が目立ちます。

たとえ挿入や射精、オーガズムがなくとも、お互いを満たすための選択肢はいくらでもありますよね。セックスより大事なのは、意外にも暮らしのなかのスキンシップだったり。ロマンチックなおしゃべりや、キスやハグを大事にすることの積み重ねが、心と体の距離をグッと近くに保ち続けてくれるものです。

さいごに

今回は、男性が抱える性のお悩みや、男性だからこそ感じる不安や葛藤などについて書かせていただきました。冒頭の調査結果は、男性も女性と同じように、性について話せる場を必要としているのかもしれない、と考えさせられたのではないでしょうか。

女性である私は、男性と全く同じように彼らの〈性〉を捉えることはできませんが、できるだけ寄り添い、その心を感じようと日々模索しています。

それは、相手がいてこそ成立するセックスはもちろん、妊活や不妊治療、パートナーシップを築くときでさえも大切なことだからです。

今回のコラムが、パートナーの性を感じてみるきっかけになれば嬉しく思います。

 

※ここでの【軽度ED】は、たいていの場合、性交に十分な勃起を得ることができて持続することもできる状態(勃起維持頻度:10回中9回)を指します。【軽度〜中程度ED】は、しばしば、性交に十分な勃起を得ることができて持続することもできる状態(勃起維持頻度:10回中7〜8回)を指します。
 

参考文献 日本性科学会 (2018)『-性機能不全のカウンセリングから治療まで- セックス・セラピー入門』金原出版 / 今井伸 (2022)『射精道』光文社 / 一般社団法人日本家族計画協会家族計画研究センター (2020) 「調査結果報告書(PDF)」【ジェックス】ジャパン・セックスサーベイ2020 https://www.jfpa.or.jp/pdf/sexservey2020/report.pdf (参照 2024-2-10) / 浜松町第一クリニック(2022)「日本のED(勃起不全)有病者数調査2022」https://www.hama1-cl.jp/internet_research/Japan_ed_population.html (参照 2024-2-10)
 

著者プロフィール

宮窪るな

宮窪るな(みやくぼ るな)
植物療法士/フェムケアセラピスト

離婚をきっかけに体調を崩し、月経前不快気分障害(PMDD)や月経困難症に悩まされるようになる。できるだけ自然のちからで心身に向き合いたいという信念から、植物療法専門校「ルボアフィトテラピースクール」の門をたたき、AMPP(仏植物療法普及医学協会)の認定資格を取得。学びの中で、恩師である森田敦子先生が啓蒙活動を続ける〈性科学(セクソロジー)〉にも大きく心を動かされ、タイ・チェンマイ発祥のトリートメントである〈カルサイネイザン〉を学ぶ。現在、フェムケアサロンの活動とともに、SNSで植物療法や性の本質を発信している。
Instagram:@phyto_note_luna

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