性と香り

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最終更新 2024.06.21 by WOMB LABO編集部

こんにちは。植物療法士、フェムケアセラピストの宮窪るなです。

皆さんは、なにかの香りにドキッとしたことや、心を動かされた経験はありますか?

私が初めて香りの力を感じたのは、離婚をきっかけに心身ともにくたびれてしまっていた頃、友人からふいに差し出されたネロリ(ビターオレンジの花)の香りを嗅いだときでした。それはまるでお日様の光が、冷え切っていた私の心と体を柔らかく、そして優しく溶かしてくれるような体験だったのを、今でも鮮明に記憶しています。

香りってすごい!香りの力をもっと知りたい!

この経験は、私が植物療法の学びの扉をたたくきっかけとなり、セラピストとして私が大切にしていきたい、ある想いのベースにもなっています。

今回は、香りについてのコラムです。香りってなに?働きがあるの?香りと性の関係は?などにフォーカスしていきます。どうぞ最後までお付き合いくださいね。

精油とは

小夏ネロリ
姪っ子と一緒にあつめた実家の小夏ネロリ

私がふだん使いしている香りは、俗にアロマオイルと呼ばれるものですが、アロマ(Aroma)とは本来、芳香香りという意味をもちます。

香りのなかでも、植物の花や葉・果実・樹脂などから抽出される100%天然で純粋な揮発性物質の正式名称は、精油またはエッセンシャルオイルです。

またアロマセラピーは、Aroma(芳香)とTherapy(療法)をかけあわせた造語で、いわゆる芳香療法のこと。香りは、ただいい匂いがするだけのものと思われがちですが、それぞれ成分をもち、働きや作用があるとされています

精油をシンプルにいうと、植物たちが自分の生体内で作りあげた、生存し自らを守るための免疫物質、かつ種を保存していくための武器。地面に根を生やし、その場を動くことができない彼らは、自力で生成した成分によって雨風や害虫、強い日差しから身を守らねばなりません。そして、受粉して繁殖するために強い香りを放ち、虫や鳥を引き寄せます。

私ならおそらく、雨が降れば屋根の下へ身をおき、異性を引き寄せたいときはデパートにいってコスメや洋服を買いに行くでしょう。笑

植物たちはその場にとどまりながらも、したたかな知恵と生命力をもって生き延び、繁殖を続けているのです。植物のパワーってすごい!

ジャーマンカモミール

芳香成分は、単一なものではなく、たくさんの異なる分子のかたまりです。例えばアルデヒド類は虫除けによい、オキサイド類は呼吸をスムーズにするなど、私たちの健康をサポートしてくれるといわれています。

ここで心にとどめておきたいのは、植物たちは人間のためにその成分を作ってくれているわけではないということです。

そもそも植物は私たち人間がいなくても生き延びられますが、私たちは植物なしでは栄養を取り込めず、生きていけません。そんな植物たちを尊敬し感謝の気持ちを忘れないよう、ちょっとだけその力を借りながら、健やかに暮らしていきたいものです。

香りはどう伝わる?

当たり前すぎてふだん気にもとめないかもしれませんが、香りは目に見えるものではありません。よくよく考えると、その目に見えない怪しい物体を嗅いで、私たちは気分を変えたり、心を穏やかにしたり、やる気を出したりしています。

そして、香りを嗅いだときに私たちが感じる感覚もまた、なんとも曖昧で不思議、そしてときにパワフルです。いったい、香りは私たちの心身にどう伝わり、なにをもたらしてくれるのでしょうか。

植物はしたたか

精油が私たちに伝わる経路は、、限りはありますが皮膚からといった3つのルートです。今回はそのうちでもっとも伝わる速度がはやいとされる鼻、つまり嗅覚からのルートに焦点を当てていきます。

鼻から取りこまれた精油の芳香分子は、まず鼻の粘膜に溶けこみ、嗅上皮と呼ばれるところにたどりつきます。嗅上皮からは繊毛が伸びており、そこにある嗅覚受容器にてまずはキャッチされるという仕組みです。受容器…?なんだか聞き慣れないワードが飛び出しましたね。

シンプルにいうと芳香分子と嗅覚受容器は、カギとカギ穴の関係です

人間の嗅覚受容器は約400種あるとされ、ひとつひとつの分子(カギ)をそれぞれの受容器(カギ穴)が受けとっています。興味深いのは、人によって持っているカギ穴の種類や数がまちまちであること。

つまり、私が感じているラベンダーの香りと、あなたの感じているラベンダーの香りが必ずしも同じであるとは限らないのです。

人によって香の感覚はちがう

さて、話題をもどしましょう。受容器でとらえられた芳香分子でしたが、ここから先は、電気信号にかわりその情報が嗅球へと伝わります。そして最終的には、大脳辺縁系や視床下部、下垂体に届くといったメカニズム。

大脳辺縁系には、本能的な行動や記憶にかかわりのある海馬、情動(喜怒哀楽)やストレス反応とつながりの深い扁桃体などがあります。

そして、前回のコラムで頻出した視床下部がここでも登場!自律神経系の司令塔とも呼ばれる大切な場所で、そこからつながる下垂体はホルモン分泌の中枢であるとお伝えしました。

香りの伝わり方〜鼻から脳へ〜

このように、嗅覚は五感のなかで唯一、なにからも阻まれることなくストレートに大脳辺縁系や視床下部に届くたのもしい存在

私たちの生活は常になんらかの香りに包まれていると考えるならば、いかに心地よい香りを取り入れるかを大切にしたいですよね。そして同時に、健やかな心身を保つために香りをうまく役立てない手はないと、私は考えています!

どうでしょうか?香りのすごさ、なんとなく伝わりましたか?

香りと性の関わり

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが私が連載しているコラム〈性〉の話をしようの本題でしょうか。

前回の記事では、性反応もまた自律神経系の支配下にあるとお伝えしました。自律神経系は目に見えない部分であり、まだまだ医学的にもすべてが明かされているわけではないミステリアスな分野ですが、嗅覚も似かよった点があります。繰り返しになりますが、香りも目には見えませんし、五感のなかでもとくに解明が遅れているといわれているのです。

そして、自律神経系をつかさどる視床下部や、ホルモン分泌の中枢である下垂体に、香りもまた同じく届くのならば…芳香療法(アロマセラピー)は性反応の手助けとして十分に活用できる可能性をはらんでいると、私は考えています。

香りで楽しむセクシュアルな時間

実際に、香りがもつ作用として〈ホルモンバランス調整作用〉や、気分を高めてくれる〈高揚作用〉、性欲を高める〈催淫作用〉などがあります。ここでひとつ忘れがちなのが、作用にとらわれすぎてしまって、香りを楽しみ、それを心地よく感じること

例えば、ラベンダーは睡眠によい香りとして一般的に知られていますが、ご自身の感覚は本当にラベンダーの香りを心地よいと感じているでしょうか?苦手だな、臭いなと感じながらも眠れるからといって続けていませんか?ネガティブなストレスはかえって眠りを妨げている可能性があります。

先ほど説明したように、香りは嗅いだ人全員に同じような感覚として伝わっているとは限りません。ならば大前提として、自分のなかで心地よいと感じる香りとそのバランスこそが、もっともその人の心に触れる香りであるといえるでしょう

そんなこといわれても、一体どんな香りがよいのかわからない…かもしれませんね!ということで今回は、私が普段ベッドサイドで使ったり、官能的な気分を楽しみたいと思ったりしたときに使っている香りのブレンドレシピを紹介します。

セクシュアルな香りのレシピ

Look at me

イランイラン 10%
Cananga odorata
ベルガモット 60%
Citrus bergamia
ペティグレン 10%
Citrus aurantium
ローレル 20%
Laurus nobilis

まずは「催淫作用をもつ精油といえば!」のイランイランをメインにしたブレンドです。世界に目を向けると、男性化粧品の香料に含まれることも多いイランイランの香り。その理由は、不感症やEDに対し、なんらかの刺激や働きかけがあるとされているからだとか!

咲いてからわずか1日で変色してしまう繊細さがあるとはいえ、イランイランは少量でとても強い香りを放つパワフルな植物。多く入れ過ぎてしまうと他の香りを飲み込んでしまうので注意が必要です。大事なのはすべての精油が心地よく香るバランス。

柑橘系のなかでももっとも奥行きを感じるベルガモット、どこか心の支えになるような苦味をもつペティグレン、甘さのなかにも呼吸をサポートしてくれるようなスッとした香りを放つローレルをブレンド。

「私だけを見て。」といえる自信を持ちたいときに感じてみてください。

Release myself

ローズ オットー 5%  
Rosa damascena
オレンジ スイート 75%
Citrus sinensis
ブラック スプルース 10%
Picae mariana
スペアミント 10% 
Mentha spicata

ローズはあらゆる精油のなかでもTOP OF TOPと評される香りです。ローズを語らずして香りの魅力を伝えるなど、ほとんど不可能でしょう。古くから女性の心身をサポートしてきた歴史があるローズは、たくさんの成分をもっている精油(その数なんと600以上!)の代表格であり、未だ明らかになっていない部分も多い謎めいた精油です。

「たくさんの成分を持っている」=「人によってどう働くかが未知である」ため、もっとも七変化する精油とも言われています。希少性も高く、支持されるものの宿命といわざるべきか、数ある精油のなかでもとくに合成されているローズの香り。ピュアなものを購入したいのであれば、学名の確認をオススメします。

ダマスクローズ

ちなみに、〈ローズ オットー〉は水蒸気蒸留法で、〈ローズ アブソリュート〉は溶剤抽出法で抽出されたもの。迷ってしまったら、オーガニック認証のついている商品を手にとると間違いないでしょう。

ローズもまた、ブレンドの比率が多すぎるとその良さを失ってしまいます。深く重みのある香りゆえに、苦手な人もいれば、嗅ぎすぎると頭痛が生じる人もいますので少量での使用がベスト。

どんなときも心のバランサーになってくれるオレンジ スイート、思わず深呼吸をしたくなってしまう唯一無二のオーラを放つスプルース ブラック、甘さとシャープさの調和が絶妙なスペアミントとのブレンドです。

香の力をかりて、心と体を軽やかに解き放ってみませんか?

illu-ME-nation

ジャスミン サンバック 5%
Jasminum sambac
オレンジ スイート 25%
Citrus sinensis
ライム 20%
Citrus aurantifolia
ローズマリー ベルベノン 15%
Rosmarinus officinalis ct verbenone
フランキンセンス フレレアナ 20%
Boswellia frereana
パチュリ 15%
Pogostemon cablin

ジャスミン サンバックは、個人的に大好きな香りです。そもそも嗅覚は感覚であるため、香りの言語化には多少苦戦しますが、私はジャスミンを嗅ぐと、なぜだか自分自身に「おかえり」と「ただいま」を言ってあげたくなるのです。

目まぐるしい世間の波から一歩抜け出して、今、ここにいる自分に戻ってこれるような香りと表現すればなんとなく伝わるでしょうか。

〈夜の女王〉の異名をもつジャスミンは、夜間により強く、妖艶で芳醇な香りを放ちはじめます。陽の当たらない場所、誰も見ていないところでついつい頑張ってしまう女性にこそ、感じて欲しい香りです。

パッと明るさをもたらすオレンジ スイート、心のモヤを晴らしてくれるようなシャープさをもつライム、甘い香りとの相性が抜群かつ、おだやかに呼吸を促してくれるローズマリー ベルベノン、ニュートラルでどこか芯のある香りが背中を押してくれるフランキンセンス フレレアナ、墨汁の香りとして知られ、じんわりと落ちつきをもたらすパチュリをブレンド。

「どんなに小さな光でもいいから、自分自身にそっと灯りを照らしてあげたい。」そんなときに刺さる香りです。

香りで自分を抱きしめる

紹介した3つのブレンドは、あくまでも私個人が心地よく感じる香り。ご自身の心に響くものを探しながら、ベストな香りたちををキャスティングしてあげてくださいね!

使い方は、ソルトに混ぜてアロマバスを楽しんだり、キャリアオイルに希釈してパートナーとのスキンシップに使ったりさまざま楽しめます。

ただし、ジャスミンは溶剤での抽出が基本ですので、ジャスミンをブレンドしたものを使用する場合は肌にふれる使い方ではなく、ピロースプレーやディフューザーを使って空間に芳香させるなど、フレグランスとしての使用が安心です。

さいごに

今回は、嗅覚、香り、そして性との関係を紹介しました。

世間には、香りにまつわるイメージやうたい文句はありふれていて、たくさんの商品となり私たちの身の周りに存在しています。ですが、それはあくまでも誰かが決めた香りのイメージ。一般的に浸透している香りの印象からはなれ、いまこそ自分の感覚を信じてみませんか?

今、ここにいる自分が心地よいと思える香りを見つけられたとき、自身の心と体の状態を、まるでうつし鏡のように植物が教えてくれるでしょう

私は今でもネロリを嗅ぐと、数年前、優しく心と体が溶かされた感覚を鮮明に思い起こします。それはまるでタイムスリップ。なぜなら香りは、人の記憶に残るからです。

だからこそ、作用だけではなく、自分、または相手の心によりそえる香りを届けたい。それは、私がセラピストとしてずっと大切にしつづけたい想いの基盤になっています。

前を向かせてくれる香り、トクンと胸に落ちる香り、冷えた心を溶かす香り、抱きしめてくれるような香り…。

そんな香りたちの力を借りながら、官能的な時間を楽しんだり、パートナーとの関係を深めたりしてみてはいかがでしょうか。

 

※精油は薬ではありません。使い方に気をつけ、適量を守りながら使用してください。このコラムで紹介した精油で生じた損傷、そのほかの問題に関する一切の責任を負いかねます。

参考文献 石原章一(2016)『運動・からだ図鑑 脳・神経のしくみ』マイナビ出版//アネルズあづさ(2023)『香りを楽しむ 特徴がわかる アロマ図鑑』ナツメ社

著者プロフィール

宮窪るな

宮窪るな(みやくぼ るな)
植物療法士/フェムケアセラピスト

離婚をきっかけに体調を崩し、月経前不快気分障害(PMDD)や月経困難症に悩まされるようになる。できるだけ自然のちからで心身に向き合いたいという信念から、植物療法専門校「ルボアフィトテラピースクール」の門をたたき、AMPP(仏植物療法普及医学協会)の認定資格を取得。学びの中で、恩師である森田敦子先生が啓蒙活動を続ける〈性科学(セクソロジー)〉にも大きく心を動かされ、タイ・チェンマイ発祥のトリートメントである〈カルサイネイザン〉を学ぶ。現在、フェムケアサロンの活動とともに、SNSで植物療法や性の本質を発信している。
Instagram:@phyto_note_luna

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